論文を書くとなると必ず「共著どの順番にする?」「どこまでが共著?」ということを考えないといけなくなります。
だいたい研究を主導し論文を書いた人(調査する人と書く人が違うこともあるけど)がFirst,分野の長がLast,研究の伴走をしてくれたメンター的な人がCorrespondingで2番,あとはLastとの間に貢献順に・・・といった感じでしょうか。
ただ,どこまで貢献とするか,どこまで共著とするかというと,調査の規模に対してあまりにもたくさん並べすぎても・・・と思ったりすることもあります・・・
そうしたときに,じゃあ何を基準にすれば良いか?ということになるのですが,
学内の研究倫理の講習会などではICMJE(International Committee of Medical Journal Editors:国際医学雑誌編集者委員会)のオーサーシップの定義をよく目にします。
その定義では, ICMJEは、著者資格を以下の4基準に基づいて判断することを勧告しています。以下原文より。
"The ICMJE recommends that authorship be based on the following 4 criteria:
- Substantial contributions to the conception or design of the work; or the acquisition, analysis, or interpretation of data for the work; AND
- Drafting the work or revising it critically for important intellectual content; AND
- Final approval of the version to be published; AND
- Agreement to be accountable for all aspects of the work in ensuring that questions related to the accuracy or integrity of any part of the work are appropriately investigated and resolved."
以下4つの基準に基づくオーサーシップを推奨:
1)研究の構想またはデザイン、あるいは研究データの取得、解析、または解釈に実質的に貢献した。
2)さらに論文を起草したか、または重要な知的内容について批評的な推敲を行った。
3)さらに出版原稿の最終承認を行った。
4)さらに研究のあらゆる部分について、その正確性または公正性に関する疑義が適切に調査され、解決されることを保証し、研究のすべての側面に対して説明責任を負うことに同意した。
重要なのは,1)が「または=or」で結ばれている点です。
この定義からすると,「研究の構想またはデザイン」or「データの取得と分析」or「データの解釈」のいずれかを満たせば良いということになります。
じゃあそれに従ってやれば良いではないかというふうになるわけですが,実際はどうかという事情があります。
というのは,そうでない学会誌と遭遇したためなのですが,これを機に日本の看護系学会の組織である日本看護系学会協議会に登録している46看護系学会のオーサーシップに関する規程を見てみました。
結果・・・
①まず「著者」の定義が投稿規程あるいは投稿ガイドラインから見つけられず=33学会(全体の72%)
①ICMJEの定義と全く同じ=2学会(全体の4%,記載ありの15%),
②ICMJEの定義を参考にしていると思われるが1)が「および=and」で結ばれているところがある=3学会(全体の7%,記載ありの23%)
③ ICMJEの定義を参考にしていると思われるが1)が一部あるいは全てが「,」などでつながれているため「or」なのか「and」なのか解釈できない=8学会(全体の17%,記載ありの62%)
という状況でした。 あまり看護だからこうというのも見えてきませんでした・・・。
(また,調べた46学会のうち 41学会(89%)では共著者を含めて会員であることを要件としていました)
社会科学系ともオーバーラップする看護では一つのオーサーシップの考え方として APA(American Psychological Association:アメリカ心理学会)の規程も取り入れられているように思われたのですが,APAのオーサーシップについて以下のような論述があります。
”著者は自分が実際に行った著作,また実質的にそれに貢献している著作に対してのみ,著者としての資格(authorship)をもつ(APA Ethics Code Standard
8.12a)。したがって,著者には実際に執筆した者だけでなく研究に実質的な学術的貢献をした者も含まれる。実質的な学術的貢献には問題点や仮設を明確化したり,実験計画を組み立てたり,統計を整理・分析したり,実験・調査結果を解釈したり,あるいは論文の主要部分を執筆したりすることが含まれる。そのような貢献をした者は著者欄に列挙される。著者に該当しない軽微な貢献をした者には注記の中で謝辞が述べられる。これらの軽微な貢献には,実験装置の設計・組み立て,統計分析における示唆や助言,データの収集や書き込み,コンピュータプログラムの修正や作成,実験参加者の募集や実験動物の獲得などの支援的な仕事が含まれる。さまざまな研究に役立つ決まりきった日常の観察や診断は通常著作の一部としてはみなされないが,このような仕事や他の仕事との組み合わせが著作の一部として正当に認められることもあり得る。”
APAガイドラインの英文が手に入れられなかったのですが,wikipediaによると
”The APA acknowledge that authorship is not limited to the writing of manuscripts, but must include those who have made substantial contributions to a study such as "formulating the problem or hypothesis, structuring the experimental design, organizing and conducting the statistical analysis, interpreting the results, or writing a major portion of the paper"” とあり,
ここではデータ収集は著者というよりも謝辞相当という位置づけのようにも見えます。
ちなみに山崎(2013)の記事では1985年にICMJEが発表した当初は「データの取得」は著者要件に入っていなかったらしいのですが,知的な寄与に重点を置き実験作業を軽視していると若手研究者からの批判を受けたと書いています。今のICMJEの定義にはこうした経緯の影響があるのでしょうか。
散漫な視点になってしまいましたが,
いろいろと調べながら考えて至った結論は,
・誰と研究するか
・どこに投稿するか
によってオーサーシップの考えに幅がある
なので,デザインするときや看護職以外の職種と共同するときにこうしたことを理解しておき,共同研究者の意志を確認する必要がある
と思いました。
特に自分のような看護の人間は,調べた46学会のうち 41学会(89%)では共著者を含めて会員であることを要件としていたという実態があるものの,共同研究した他の職種の方に看護系の学会員になってくださいと言うことはなかなか難しく・・・ けれどこの結果は特に看護職に伝えると良いのでは(or質的など看護に馴染のある研究手法)・・・ということもあり,他の職種と共同した成果を発表することへの障壁があるようにも感じますし,研究室内の一貫してやってきたメンバーだけが著者です,となるのも違うのかなあ・・・とも思ったりモヤモヤしております。
[記事中の各学会のオーサーシップ定義の検索はぱらっと確認しただけですので正確でないかもしれないことをお言付けいたします。正確な情報は検索の上ご確認をお願いいたします]