2016年7月13日水曜日

Rodgersの概念分析 方法論

前回に引き続きRodgersの概念分析の話です。

実際にこれまでRodgersの概念分析を用いて分析を行った研究者らの論文で
こうした詳細の方法論の記述が分量の問題等もあるのか、あまり詳細な過程は記載されていないことが多いことがわかりました。ひとまず方法論について述べている箇所を抜粋。そこから考えてみる。

概念分析の初期活動
1.関心のある、(代理の言葉を含む)表現に関連した概念を特定する
2.データ収集のための適切な範囲(状況と対象)を特定し選ぶ
3.特定に関するデータを収集する
  A:概念の属性(attribute)
  B:学際的で社会文化的、一時的な(先立つ、結果として起こる出来事)
バリエーションを含めた概念の文脈上の基準
4.上記の概念の特徴に関するデータを分析する
5.もし可能であれば、概念の典型を特定する
6.概念のさらなる開発のための示唆や仮説を特定する

1.関心のある概念特定する(p85)  -Identifying the Concept of Interest-
  最も一般的な方法は書かれた、または話された言語(language)を用いるものである。
  初期の主要な焦点は関心のある概念と分析をガイドするための適した専門用語を決定することである。これが極めて重要なステップである。
  分析段階での文献の親しみやすさ(Familiarity)は研究者が研究に適した概念や専門用語を選べるようにするために不可欠である。
  概念は単語(word)ではなくアイディア(idea)や単語に関連した特徴である。単語は概念を表現するのに用いられるが、概念そのものではない。
  時間を超えたり、規範やほかの文脈を通した賛成や反対の領域から生じる概念の変化に晒されることが概念分析に望まれる。

2.状況と対象を選ぶ(p87)  -Choosing the Setting and Sample-
  明確な目的はデータ収集のための状況や対象の選定に強く影響する。
  研究に含まれる文献の特徴的な要素が特定されたら、次は研究で用いる対象の選定となる。
  対象は概念に関する「存在する文献(existing literature)」としてのみ記述されることが多い。
  調査者は手順に用いるための存在する文献に関連した実際の全ての集団を特定することはできないが、索引つきの文献の全体の集団は特定可能である。
  階層化された系統的なランダムサンプリングは、分析において実際の文献を選定するのに用いられる。この手順によって包括的な(comprehensive)サンプルが可能となる。
  少なくともそれぞれの規範または階層で30アイテム、もしくは全集団の20%ほどの数が導かれる。この数は文献のコンセンサスの特定や、データの集約に達するのにはかなり少ないが、大きなサンプルでの組み立ては難しいだろう。

3.データを収集し取り扱う(p90)  -Collecting and Managing the Data-
  A:概念の属性(attribute)
  B:学際的で社会文化的、一時的な(先立つ、結果として起こる出来事)バリエーション
  実際の分析は、いくつかのアプロ―チによって支持された「事例」の構造ではなく、生データの分析と収集に焦点を当てている。
  概念の属性の特定化は概念分析の最初の成果として現される。
  研究者は概念の属性に関連するデータの特定に熱心にしばしば取り組む。実際の定義は属性に関する重要で役に立つデータだけれども、そうした記述において定義はほとんど提供されない。読者(研究者)は概念をどのように定義するかの手がかり(clue)を提供する記述を探す必要がある。概念の定義に関する疑問に答える洞察を提供した記述は属性に関するデータを構成する
  概念の文脈上の基準を特定することは、概念に適するための状況、時間上、社会文化的、専門的な文脈を言及することになる。例)「いつそれが起きたか?」「その前後に何が起きたか?」「結果として何が起きたか?」
  データの収集は概念の使用の感覚を得るため、また概念を用いる際の一般的なトーンを特定するために少なくとも一度はそれぞれのアイテムを読むことによって始まる。
  代理の(surrogate)用語や関連する概念は収集されたそのままのデータの構成要素となる。
  代理の用語は公式な分析が始まる前にある程度特定されなければならない。それは互換性を持ち、同じように表現され用いられる用語はサンプリングに合った集団を特定しやすくするのに必要だからである。
  ある用語を代理用語とするかについては、全く異なる言及がいくらか(some)あるかどうかや、同じアイディアについて異なる単語がほとんど(merely)用いられていないかどうかに留意する。
  関連する事例(related cases)の発展を通じて、相互作用という着想を試みようとすることもある。最も重要なのは、関連する事例が分析する概念の属性の全てではなくいくつかを明示する状況や、関心のある特別な概念の活用に焦点を当てるのを制限することである。
  関連性を示すのにはデータの取り扱いが重要である。個々の手順で開発する際に、後で参照できるようにページ番号やソースを記したり、逐語的に文章を鍵括弧したりすると役立つ。

4.データを分析する(p94)  -Analyzing the Data-
  データの分析はフィールドワーク、収集するデータのタイプ、概念開発の目的で行われる分析の間で大きな違いがある。
  典型的なフィールドワークでは、同時の分析が特に適したデータソースや尋ねる質問に関して、研究を次のステップに進めるのに必要である。
  一般的に分析は標準的なテーマ分析の手順によって行われる。
  それぞれのデータ(属性、文脈上の情報、そして参考文献)のカテゴリーは分けて論文に書かれた主要なテーマを特定するのを調査する。
  類似した概念や代理する用語が首尾一貫した、包括的な、関連したシステムに一般化されるまで、論文の類似点を継続的に組織化したり再組織化したりする過程が不可欠である。
  データは組織化され、適した「ラベル」が概念の主要な側面を述べるために特徴づけられるため、分析はより理論的特徴へと進む。

5.典型(Exemplar)を特定する(p96)  -Identifying an Exemplar-
  帰納的な技術を用いる。
  典型の目的は文脈に関連した概念の実際の証明を提供する。つまり、概念の現在の状態を表すのに役立つだろう。
  研究者は質の典型と位置付けた研究に含まれる実際例を超えて、追加の文献レビューを必要とされる。
  概念の明確な例を特定し、結果として関心のある概念の効果的な活用(application)を後押しする。
  この段階におけるよくある困難は、適した典型の位置付けができないこととの遭遇である。しかし、研究者は研究の限界として適した典型の位置づけができないと考えることはできない。
  一方で、より発展していくためには概念の不明瞭な領域や限界を説明することも求められる。

6.結果の解釈(p97)  -Interpreting the Result-
  概念分析の結果は、概念とは何かという問いへのまさに明確な回答は提供されない。
  その代わりに、さらなる探究につなげ、そして進めるためにとても役立つ発見を促す(heuristic)
  相互作用をみることで、概念の現在の状態を分かつことができ、知識における状態と特定されたギャップに基づく研究への示唆が得られる。
  学際的な比較はほかの領域に「借り物(borrowed)」と考えられた看護における概念の位置づけに役立つ。

7.示唆を特定する(p98)  -Identifying Implications-
  概念分析は最終的な結果としてよりもむしろさらなる概念開発や探究の基盤としての概念分析を強調する。
  実際の看護の状況における概念の活用を評価することは一つ重要である。
  分析から生じる仮説は様々な研究デザインに活用できる。それは看護介入の効果を確かめること(尺度開発も含めて)も含まれる。
  研究には概念を事前に分析することのない研究も含まれているが、初めの分析を行うことでさらなる研究の強固な中核的基盤を提供し、研究を前進させる。 

2016年7月5日火曜日

Rodgersの概念分析

看護科学論は、どのような哲学的基盤をもってこれから看護科学における知を創造する者として
取り組んでいくのかという科学哲学的立脚点を獲得することと、
看護学の知の集積に基づく概念的思考力と理論生成・構築力の習得を目的とした科目です。

今日の看護科学論は概念分析手法についてでしたが、私はRodgersを担当しました。
Walker & Avent, Chin & Kramerなど日本語訳されている本もあるなか、残念ながらRodgersのConcept Development in Nursingはまだ翻訳出版されていません…。
ということで少し整理してみました。

Rodgersは今日本の看護界で概念分析の話をするときに必ず上がってくる、革新的手法(Evolutionary View)を提唱した研究者です。


「概念分析は実証主義の(positicvistic)もしくは還元主義(reductionistic)の視点にある困難を乗り越えることであり、現実におけるダイナミズム(dynamism)と相互作用(interrelation)を見極めるために現代の関心事(contemporary concerns)に取り組むことである。」
Rodgersは概念をたえず変化する対象(as continually subject)として、また意味(significance)、使用(use)、活用(application)を通して発展するものとして、優れた哲学者(Price,1953;Rorty,1979;Toulmin,1972;Wittgenstein,1953/1968)の視点を統合した。


<Toulmin>
論証は特定の結論を導いたり、主張を強化するものである。Toulmin Logicとして6つの論証の要素を挙げており、主張(claim)、根拠(data)、論拠(warrant)、例外(reservation)、限定(qualifier)、裏付け(backing)から成る。

<Wittgenstein>
論理哲学論考、言語ゲームなどを提唱。言葉が単一の本質を持たないことや一元的な理論による記述やそれによって明かされるような本質はないと主張している。


概念開発のサイクルにおける要素
Significance
問題解決を後押しする概念の能力、現象を的確に形作る能力
Use
概念を用いる際の方法
Application
実際に使用してみた事例。Applicationを通して概念が洗練・発展

概念開発サイクル(cycle of concept development)




 Rodgersが唱えた概念分析で強調する点(p47)
  概念分析のプロセスは直線的でなく、次のステップよりもむしろ重複した段階の連続に内包される。
  概念分析を行う一つの基本的な(fundamental)目的が関心のある概念を明確化させる。
  概念は変化が起こり得る状態ととらえる(以下により詳細な説明)。モデルケースを日々提供する結果として明確化の度合いが述べられる。

変化が起こり得る状態とは(P77-)
分析の目的はあることの核心的(critical)な属性(象徴)(attributes)または「本質(essence)」を含む言葉に関心をもつ概念を定義することである。
「本質」=概念の領域や境界を説明するのに必要十分(necessary and sufficient)なこと
現在の傾向は概念を動じないもの(static)としてよりもむしろ、動的な(dynamic)ものとして考えるようになっている。すなわち、有限(finite)、絶対的(absolute)、「きわめてはっきりしている(crystal clear)」というよりも「不明瞭(fuzzy)」である。言い換えれば、すべてに共通する(universal)というよりも文脈によるものであり、本来備わった(inherent)「事実(truth)」よりもむしろ実際的な使用や目的によるものである。

概念分析の方法(p83)
  概念開発サイクルにおいて概念分析の方法は特に重要な役割を持つ。
  概念分析は「use」の段階に焦点を当てている。
  概念分析は概念やその現在の使用の明確化に向かわせる。
  実際の概念分析の手続きはWilson(1963)Walker & Avant(1983,1988)Chin & Jacobs(1983)といった哲学的アプローチと矛盾しない。
  概念分析の異なるアプロ―チは、どの分析過程にも共通して存在する概念の本質(nature)や特徴(characteristic)をもとに、共通した特徴をまさに(simply)共有しようとする(share common features)ことである。(ほとんどのWilsonianはこれをしてこなかった)
  哲学的基盤に基づいたアプローチも他の方法と比べて繊細(subtle)である。方法は何人かの研究者が示したプロセスのような、研究者が概念のアイディアを自身であらかじめ決めたものではなく、厳格な分析と帰納的な探究によって行われている。

方法論についてはまた次回ふれたいと思います。

文献
Rodgers BL & Knafl KA: Concept Development in Nursing, 2nd edition, SAUNDERS,2013