2019年6月16日日曜日

看護学における博士号

書きたいことは思いつきながらも半年以上空けてしまった。

この半年での大きな出来事は,看護学博士をとったことだろう。
今日はこのことについて。

とったと言えば手続き的なことのようにも思えるが,これまでたかだか30年だけど,生きてて一番魂が磨り減った。体重は減ったし,ちょっととってバーンアウト的な空虚感を感じたり。
Natureで博士学生のメンタルは危機的という記事を読んで,自分もそうだったかもとすら思う。でも自分の疑問と本気で向き合えた大切な時間だったし,支えてくれた人への感謝は一生かけて返していきたい。

とったことでまず変わった表向きなことは,助手から助教になったことである。
学内での役割が少し増えたり,教員としてカウントされるようになったので学内の決めごとの参政権は若干変化として感じているが,楽しみにしていた給与は変わらなかった・・・(ここ重要)。そもそも学位は持っていることが前提だからということなんだろうと言い聞かせてみる。

日本での看護における博士課程の歴史は浅い。
1988年に聖路加,1993年に千葉大,1995年に日赤などの先導で看護系の博士後期課程が設置されており,今あるほとんどの博士課程が平成の設置である。私が修了した東北大学も2010年設置,つい9年前で,私でまだ21人目だ。恩師の先生方は,当時は看護学としての博士はなかったので医学博士を取得するか,海外で博士号をとるかといった選択肢しかなかったよう。本当のフロンティアである。

昨今の看護大学の急増で大学の教員は人員不足とも言われ,看護学博士を持っていればアカデミックポストへの就職は困らないともささやかれる。けれど,それは博士の裾野が広がるまでの話で,少なくとも今から研究者を目指す若手なら博士+アルファが求められるんだと思う。それが看護科学が次の発展段階に向かう基礎になるんだろう。

博士号は足のうらの米粒,とらないと気持ち悪いけどとっても食べられないとかよく言われる(修士を出るときの研究科長からの祝辞でも言われた)。
でも,そうはいってもやっぱり研究者の通行手形,発展途上にある看護学をさらに切り開くためにはないと困ることがある。例えばやりたいことをやる,必要性を訴えるというときに偉い人,重要な人に耳を傾けてもらう難しさ,みんながフラットな視点で物事をみてくれるわけではないこと,誰が発信するかが重要になることがあることとか,いろいろな壁を感じることがあった。少なくとも博士はそういうときの通行手形となりうるし,使ってこういう障壁をとっぱらい,看護学をさらに切り開くチャンスがあることこそ,博士の一つの価値だと思う。かといってそれがなきゃ絶対だめかと言われるとそうでもないし,ふりかざすものでもないという,かなり面倒くさいものでもあることは間違いない・・・。

ちなみに現在博士後期課程があるのは,
国立で30大学31コースで定員285名,公立で31大学33コースで定員127名,私立で42大学43コースで定員221名,
合わせると103大学107コース,定員数は633名(保健学専攻も含む)にものぼる(2019年度日本看護系大学協議会のリストより)。

保健学専攻は看護学以外の専攻も合わさっているし,そもそも定員を満たすくらい入学しているのかという問題もあるが,年間100~200人くらいは新たに看護学博士になっている時代ではなかろうか・・・。

アメリカでは臨床ナースの博士課程(Doctor of Nursing Practice: DNP)がPhD(いわゆる研究者コース)よりも主流になりつつある。日本はNP養成に関する課題も山積しているけれど,こうした臨床に戻ることをベースにした博士教育もこれからますます活発化していくんだろう。

とって何をするかが試される。
自分が切り開きたい看護の話はまたの機会に残すことにします。

2018年9月22日土曜日

共著とはなにか? オーサーシップ

最近少し内輪で話題になったこともあり,整理しておこうと思ったこと、オーサーシップについてです。

論文を書くとなると必ず「共著どの順番にする?」「どこまでが共著?」ということを考えないといけなくなります。

だいたい研究を主導し論文を書いた人(調査する人と書く人が違うこともあるけど)がFirst,分野の長がLast,研究の伴走をしてくれたメンター的な人がCorrespondingで2番,あとはLastとの間に貢献順に・・・といった感じでしょうか。

ただ,どこまで貢献とするか,どこまで共著とするかというと,調査の規模に対してあまりにもたくさん並べすぎても・・・と思ったりすることもあります・・・

そうしたときに,じゃあ何を基準にすれば良いか?ということになるのですが,

学内の研究倫理の講習会などではICMJE(International Committee of Medical Journal Editors:国際医学雑誌編集者委員会)のオーサーシップの定義をよく目にします。

 その定義では, ICMJEは、著者資格を以下の4基準に基づいて判断することを勧告しています。以下原文より。

"The ICMJE recommends that authorship be based on the following 4 criteria:
  • Substantial contributions to the conception or design of the work; or the acquisition, analysis, or interpretation of data for the work; AND
  • Drafting the work or revising it critically for important intellectual content; AND
  • Final approval of the version to be published; AND
  • Agreement to be accountable for all aspects of the work in ensuring that questions related to the accuracy or integrity of any part of the work are appropriately investigated and resolved."
日本語にすると,

以下4つの基準に基づくオーサーシップを推奨:
1)研究の構想またはデザイン、あるいは研究データの取得、解析、または解釈に実質的に貢献した。
2)さらに論文を起草したか、または重要な知的内容について批評的な推敲を行った。
3)さらに出版原稿の最終承認を行った。
4)さらに研究のあらゆる部分について、その正確性または公正性に関する疑義が適切に調査され、解決されることを保証し、研究のすべての側面に対して説明責任を負うことに同意した。

重要なのは,1)が「または=or」で結ばれている点です。
この定義からすると,「研究の構想またはデザイン」or「データの取得と分析」or「データの解釈」のいずれかを満たせば良いということになります。

じゃあそれに従ってやれば良いではないかというふうになるわけですが,実際はどうかという事情があります。
というのは,そうでない学会誌と遭遇したためなのですが,これを機に日本の看護系学会の組織である日本看護系学会協議会に登録している46看護系学会のオーサーシップに関する規程を見てみました。

結果・・・
①まず「著者」の定義が投稿規程あるいは投稿ガイドラインから見つけられず=33学会(全体の72%)
①ICMJEの定義と全く同じ=2学会(全体の4%,記載ありの15%),
②ICMJEの定義を参考にしていると思われるが1)が「および=and」で結ばれているところがある=3学会(全体の7%,記載ありの23%)
③ ICMJEの定義を参考にしていると思われるが1)が一部あるいは全てが「,」などでつながれているため「or」なのか「and」なのか解釈できない=8学会(全体の17%,記載ありの62%)
という状況でした。 あまり看護だからこうというのも見えてきませんでした・・・。

(また,調べた46学会のうち 41学会(89%)では共著者を含めて会員であることを要件としていました)

社会科学系ともオーバーラップする看護では一つのオーサーシップの考え方として APA(American Psychological Association:アメリカ心理学会)の規程も取り入れられているように思われたのですが,APAのオーサーシップについて以下のような論述があります。


”著者は自分が実際に行った著作,また実質的にそれに貢献している著作に対してのみ,著者としての資格(authorship)をもつ(APA Ethics Code Standard 8.12a)。したがって,著者には実際に執筆した者だけでなく研究に実質的な学術的貢献をした者も含まれる。実質的な学術的貢献には問題点や仮設を明確化したり,実験計画を組み立てたり,統計を整理・分析したり,実験・調査結果を解釈したり,あるいは論文の主要部分を執筆したりすることが含まれるそのような貢献をした者は著者欄に列挙される。著者に該当しない軽微な貢献をした者には注記の中で謝辞が述べられる。これらの軽微な貢献には,実験装置の設計・組み立て,統計分析における示唆や助言,データの収集や書き込み,コンピュータプログラムの修正や作成,実験参加者の募集や実験動物の獲得などの支援的な仕事が含まれる。さまざまな研究に役立つ決まりきった日常の観察や診断は通常著作の一部としてはみなされないが,このような仕事や他の仕事との組み合わせが著作の一部として正当に認められることもあり得る。”

APAガイドラインの英文が手に入れられなかったのですが,wikipediaによると
”The APA acknowledge that authorship is not limited to the writing of manuscripts, but must include those who have made substantial contributions to a study such as "formulating the problem or hypothesis, structuring the experimental design, organizing and conducting the statistical analysis, interpreting the results, or writing a major portion of the paper"” とあり,

ここではデータ収集は著者というよりも謝辞相当という位置づけのようにも見えます。
ちなみに山崎(2013)の記事では1985年にICMJEが発表した当初は「データの取得」は著者要件に入っていなかったらしいのですが,知的な寄与に重点を置き実験作業を軽視していると若手研究者からの批判を受けたと書いています。今のICMJEの定義にはこうした経緯の影響があるのでしょうか。

散漫な視点になってしまいましたが,
いろいろと調べながら考えて至った結論は,

・誰と研究するか
・どこに投稿するか
によってオーサーシップの考えに幅がある
なので,デザインするときや看護職以外の職種と共同するときにこうしたことを理解しておき,共同研究者の意志を確認する必要がある

と思いました。

特に自分のような看護の人間は,調べた46学会のうち 41学会(89%)では共著者を含めて会員であることを要件としていたという実態があるものの,共同研究した他の職種の方に看護系の学会員になってくださいと言うことはなかなか難しく・・・ けれどこの結果は特に看護職に伝えると良いのでは(or質的など看護に馴染のある研究手法)・・・ということもあり,他の職種と共同した成果を発表することへの障壁があるようにも感じますし,研究室内の一貫してやってきたメンバーだけが著者です,となるのも違うのかなあ・・・とも思ったりモヤモヤしております。

[記事中の各学会のオーサーシップ定義の検索はぱらっと確認しただけですので正確でないかもしれないことをお言付けいたします。正確な情報は検索の上ご確認をお願いいたします]

2018年3月7日水曜日

Impact factorとEigenfactor Score

しばらく投稿していませんでしたが,ブログをきっかけに連絡をいただく機会があったり,そもそも自分が読んだ論文の整理をさらっとやりたいとおもったり。ということで,またはじめようと思います。

今回は,Impact factorと最近よく目にするEigenfactor Scoreについて。

権威あるジャーナルというとImpact Factor(IF)が大きな指標になっている現状があるかと思われますが,そもそもなにかというと,
『特定の1年間において、ある特定雑誌に掲載された「平均的な論文」がどれくらい頻繁に引用されているかを示す尺度。一般に、その分野における雑誌の影響度を表す。』(Clarivate Analyticsより)
とのことで,
 A=2015年、2016年に雑誌Pに掲載された論文が2017年中に引用された回数
 B= 2015年、2016年に雑誌Pが掲載した論文の数
 雑誌Pの2017年のインパクトファクター=A/B。

ちなみに看護領域で現在最も高いIFを誇る雑誌は『International Journal of Nursing Studies』で3.755,2位は『European Journal of Cardiovascular Nursing』で2.763。まだまだ他の科学分野と比べると道半ばにあることがわかります・・・。
ちなみに私が関係する小児看護領域でIFトップは『Journal of Family Nursing』の2.537。
純粋に小児だと『Journal of Pediatric Health Care』で1.46でした。

これに対して,Eigenfactor Scoreとは,
『学術誌の影響指標についてはImpact Factorが広く使われてきたが,引用数を発表数で割るという単純な指標で、発表数の少ない,つまりマイナー雑誌が有利で,その数値が一人歩きして勝手にランク指標として扱われるなどさまざまな弊害がでていた。Eigen Factorはこれらの弊害をかなり減らすことに成功し,あらたな指標として注目を浴びている。』(中西印刷H, EIGENFACTOR HPより)
計算式はなんだかよくわからないけど,その領域の研究者が相対的に重要視している雑誌がわかるってことかなっていう理解で,改めて看護領域のEigenfactor Scoreを見てみると,
首位はIF1位と同様で『International Journal of Nursing Studies』(0.01295)。しかし2位には0.01198で『Journal of Advanced Nursing』が入った。『Journal of Advanced Nursing』は,IFだと1.998で看護13位だけど,引用数は2位の『International Journal of Nursing Studies』7,186の約2倍を誇る14,739でダントツのトップ。どっちも看護領域からすると際立っていますが,この値は他の看護の雑誌と比べるとさらに飛び抜けて高い値。こうした結果が反映されたデータなのだと思われる。

大学での国際化推進の流れを受けて,まさに今,分野で抄読会の改造を図っていますが,
いろいろ整理するなかでわかったこと。
看護系の英文雑誌, 『International Journal of Nursing Studies』と『Journal of Advanced Nursing』は要チェック。
そんなの常識でしょと思った看護研究の先生がいらしたら,ぜひその感覚を教えていただきたいです。 これが実際に看護系の英文雑誌を読みあさっている先生の感覚とマッチしてたら良いけども・・・と思いながら。コメントいただけると幸いです。

記事中のデータはClarivate Analyticsより,
[Journal Data Filtered By:  Selected JCR Year: 2016 Selected Editions: SCIE Selected Categories: 'NURSING' Selected Category Scheme: WoS]で検索した結果を元にお話ししています。

2016年7月13日水曜日

Rodgersの概念分析 方法論

前回に引き続きRodgersの概念分析の話です。

実際にこれまでRodgersの概念分析を用いて分析を行った研究者らの論文で
こうした詳細の方法論の記述が分量の問題等もあるのか、あまり詳細な過程は記載されていないことが多いことがわかりました。ひとまず方法論について述べている箇所を抜粋。そこから考えてみる。

概念分析の初期活動
1.関心のある、(代理の言葉を含む)表現に関連した概念を特定する
2.データ収集のための適切な範囲(状況と対象)を特定し選ぶ
3.特定に関するデータを収集する
  A:概念の属性(attribute)
  B:学際的で社会文化的、一時的な(先立つ、結果として起こる出来事)
バリエーションを含めた概念の文脈上の基準
4.上記の概念の特徴に関するデータを分析する
5.もし可能であれば、概念の典型を特定する
6.概念のさらなる開発のための示唆や仮説を特定する

1.関心のある概念特定する(p85)  -Identifying the Concept of Interest-
  最も一般的な方法は書かれた、または話された言語(language)を用いるものである。
  初期の主要な焦点は関心のある概念と分析をガイドするための適した専門用語を決定することである。これが極めて重要なステップである。
  分析段階での文献の親しみやすさ(Familiarity)は研究者が研究に適した概念や専門用語を選べるようにするために不可欠である。
  概念は単語(word)ではなくアイディア(idea)や単語に関連した特徴である。単語は概念を表現するのに用いられるが、概念そのものではない。
  時間を超えたり、規範やほかの文脈を通した賛成や反対の領域から生じる概念の変化に晒されることが概念分析に望まれる。

2.状況と対象を選ぶ(p87)  -Choosing the Setting and Sample-
  明確な目的はデータ収集のための状況や対象の選定に強く影響する。
  研究に含まれる文献の特徴的な要素が特定されたら、次は研究で用いる対象の選定となる。
  対象は概念に関する「存在する文献(existing literature)」としてのみ記述されることが多い。
  調査者は手順に用いるための存在する文献に関連した実際の全ての集団を特定することはできないが、索引つきの文献の全体の集団は特定可能である。
  階層化された系統的なランダムサンプリングは、分析において実際の文献を選定するのに用いられる。この手順によって包括的な(comprehensive)サンプルが可能となる。
  少なくともそれぞれの規範または階層で30アイテム、もしくは全集団の20%ほどの数が導かれる。この数は文献のコンセンサスの特定や、データの集約に達するのにはかなり少ないが、大きなサンプルでの組み立ては難しいだろう。

3.データを収集し取り扱う(p90)  -Collecting and Managing the Data-
  A:概念の属性(attribute)
  B:学際的で社会文化的、一時的な(先立つ、結果として起こる出来事)バリエーション
  実際の分析は、いくつかのアプロ―チによって支持された「事例」の構造ではなく、生データの分析と収集に焦点を当てている。
  概念の属性の特定化は概念分析の最初の成果として現される。
  研究者は概念の属性に関連するデータの特定に熱心にしばしば取り組む。実際の定義は属性に関する重要で役に立つデータだけれども、そうした記述において定義はほとんど提供されない。読者(研究者)は概念をどのように定義するかの手がかり(clue)を提供する記述を探す必要がある。概念の定義に関する疑問に答える洞察を提供した記述は属性に関するデータを構成する
  概念の文脈上の基準を特定することは、概念に適するための状況、時間上、社会文化的、専門的な文脈を言及することになる。例)「いつそれが起きたか?」「その前後に何が起きたか?」「結果として何が起きたか?」
  データの収集は概念の使用の感覚を得るため、また概念を用いる際の一般的なトーンを特定するために少なくとも一度はそれぞれのアイテムを読むことによって始まる。
  代理の(surrogate)用語や関連する概念は収集されたそのままのデータの構成要素となる。
  代理の用語は公式な分析が始まる前にある程度特定されなければならない。それは互換性を持ち、同じように表現され用いられる用語はサンプリングに合った集団を特定しやすくするのに必要だからである。
  ある用語を代理用語とするかについては、全く異なる言及がいくらか(some)あるかどうかや、同じアイディアについて異なる単語がほとんど(merely)用いられていないかどうかに留意する。
  関連する事例(related cases)の発展を通じて、相互作用という着想を試みようとすることもある。最も重要なのは、関連する事例が分析する概念の属性の全てではなくいくつかを明示する状況や、関心のある特別な概念の活用に焦点を当てるのを制限することである。
  関連性を示すのにはデータの取り扱いが重要である。個々の手順で開発する際に、後で参照できるようにページ番号やソースを記したり、逐語的に文章を鍵括弧したりすると役立つ。

4.データを分析する(p94)  -Analyzing the Data-
  データの分析はフィールドワーク、収集するデータのタイプ、概念開発の目的で行われる分析の間で大きな違いがある。
  典型的なフィールドワークでは、同時の分析が特に適したデータソースや尋ねる質問に関して、研究を次のステップに進めるのに必要である。
  一般的に分析は標準的なテーマ分析の手順によって行われる。
  それぞれのデータ(属性、文脈上の情報、そして参考文献)のカテゴリーは分けて論文に書かれた主要なテーマを特定するのを調査する。
  類似した概念や代理する用語が首尾一貫した、包括的な、関連したシステムに一般化されるまで、論文の類似点を継続的に組織化したり再組織化したりする過程が不可欠である。
  データは組織化され、適した「ラベル」が概念の主要な側面を述べるために特徴づけられるため、分析はより理論的特徴へと進む。

5.典型(Exemplar)を特定する(p96)  -Identifying an Exemplar-
  帰納的な技術を用いる。
  典型の目的は文脈に関連した概念の実際の証明を提供する。つまり、概念の現在の状態を表すのに役立つだろう。
  研究者は質の典型と位置付けた研究に含まれる実際例を超えて、追加の文献レビューを必要とされる。
  概念の明確な例を特定し、結果として関心のある概念の効果的な活用(application)を後押しする。
  この段階におけるよくある困難は、適した典型の位置付けができないこととの遭遇である。しかし、研究者は研究の限界として適した典型の位置づけができないと考えることはできない。
  一方で、より発展していくためには概念の不明瞭な領域や限界を説明することも求められる。

6.結果の解釈(p97)  -Interpreting the Result-
  概念分析の結果は、概念とは何かという問いへのまさに明確な回答は提供されない。
  その代わりに、さらなる探究につなげ、そして進めるためにとても役立つ発見を促す(heuristic)
  相互作用をみることで、概念の現在の状態を分かつことができ、知識における状態と特定されたギャップに基づく研究への示唆が得られる。
  学際的な比較はほかの領域に「借り物(borrowed)」と考えられた看護における概念の位置づけに役立つ。

7.示唆を特定する(p98)  -Identifying Implications-
  概念分析は最終的な結果としてよりもむしろさらなる概念開発や探究の基盤としての概念分析を強調する。
  実際の看護の状況における概念の活用を評価することは一つ重要である。
  分析から生じる仮説は様々な研究デザインに活用できる。それは看護介入の効果を確かめること(尺度開発も含めて)も含まれる。
  研究には概念を事前に分析することのない研究も含まれているが、初めの分析を行うことでさらなる研究の強固な中核的基盤を提供し、研究を前進させる。 

2016年7月5日火曜日

Rodgersの概念分析

看護科学論は、どのような哲学的基盤をもってこれから看護科学における知を創造する者として
取り組んでいくのかという科学哲学的立脚点を獲得することと、
看護学の知の集積に基づく概念的思考力と理論生成・構築力の習得を目的とした科目です。

今日の看護科学論は概念分析手法についてでしたが、私はRodgersを担当しました。
Walker & Avent, Chin & Kramerなど日本語訳されている本もあるなか、残念ながらRodgersのConcept Development in Nursingはまだ翻訳出版されていません…。
ということで少し整理してみました。

Rodgersは今日本の看護界で概念分析の話をするときに必ず上がってくる、革新的手法(Evolutionary View)を提唱した研究者です。


「概念分析は実証主義の(positicvistic)もしくは還元主義(reductionistic)の視点にある困難を乗り越えることであり、現実におけるダイナミズム(dynamism)と相互作用(interrelation)を見極めるために現代の関心事(contemporary concerns)に取り組むことである。」
Rodgersは概念をたえず変化する対象(as continually subject)として、また意味(significance)、使用(use)、活用(application)を通して発展するものとして、優れた哲学者(Price,1953;Rorty,1979;Toulmin,1972;Wittgenstein,1953/1968)の視点を統合した。


<Toulmin>
論証は特定の結論を導いたり、主張を強化するものである。Toulmin Logicとして6つの論証の要素を挙げており、主張(claim)、根拠(data)、論拠(warrant)、例外(reservation)、限定(qualifier)、裏付け(backing)から成る。

<Wittgenstein>
論理哲学論考、言語ゲームなどを提唱。言葉が単一の本質を持たないことや一元的な理論による記述やそれによって明かされるような本質はないと主張している。


概念開発のサイクルにおける要素
Significance
問題解決を後押しする概念の能力、現象を的確に形作る能力
Use
概念を用いる際の方法
Application
実際に使用してみた事例。Applicationを通して概念が洗練・発展

概念開発サイクル(cycle of concept development)




 Rodgersが唱えた概念分析で強調する点(p47)
  概念分析のプロセスは直線的でなく、次のステップよりもむしろ重複した段階の連続に内包される。
  概念分析を行う一つの基本的な(fundamental)目的が関心のある概念を明確化させる。
  概念は変化が起こり得る状態ととらえる(以下により詳細な説明)。モデルケースを日々提供する結果として明確化の度合いが述べられる。

変化が起こり得る状態とは(P77-)
分析の目的はあることの核心的(critical)な属性(象徴)(attributes)または「本質(essence)」を含む言葉に関心をもつ概念を定義することである。
「本質」=概念の領域や境界を説明するのに必要十分(necessary and sufficient)なこと
現在の傾向は概念を動じないもの(static)としてよりもむしろ、動的な(dynamic)ものとして考えるようになっている。すなわち、有限(finite)、絶対的(absolute)、「きわめてはっきりしている(crystal clear)」というよりも「不明瞭(fuzzy)」である。言い換えれば、すべてに共通する(universal)というよりも文脈によるものであり、本来備わった(inherent)「事実(truth)」よりもむしろ実際的な使用や目的によるものである。

概念分析の方法(p83)
  概念開発サイクルにおいて概念分析の方法は特に重要な役割を持つ。
  概念分析は「use」の段階に焦点を当てている。
  概念分析は概念やその現在の使用の明確化に向かわせる。
  実際の概念分析の手続きはWilson(1963)Walker & Avant(1983,1988)Chin & Jacobs(1983)といった哲学的アプローチと矛盾しない。
  概念分析の異なるアプロ―チは、どの分析過程にも共通して存在する概念の本質(nature)や特徴(characteristic)をもとに、共通した特徴をまさに(simply)共有しようとする(share common features)ことである。(ほとんどのWilsonianはこれをしてこなかった)
  哲学的基盤に基づいたアプローチも他の方法と比べて繊細(subtle)である。方法は何人かの研究者が示したプロセスのような、研究者が概念のアイディアを自身であらかじめ決めたものではなく、厳格な分析と帰納的な探究によって行われている。

方法論についてはまた次回ふれたいと思います。

文献
Rodgers BL & Knafl KA: Concept Development in Nursing, 2nd edition, SAUNDERS,2013



2016年6月25日土曜日

研究の内容について

My research questions are as follows:
Does Japanese parents of children with life threatening-illness experience their psychological growth as with them in other countries?
What is psychological growth in parents of children with life-threatening illness?
If Japanese parents of children with life-threatening illness experience their psychological growth, how they reach it?
If Japanese parents of children with life-threatening illness experience their psychological growth, what kind of benefit do they have to reach psychological growth?
If Japanese parents of children with life-threatening illness have some benefits to reach psychological growth, What should health care professionals do for them?